【アラベスク】メニューへ戻る 第7章【雲隠れ (後編)】目次へ 各章の簡単なあらすじへ 登場人物紹介の表示(別窓)

前のお話へ戻る 次のお話へ進む







【アラベスク】  第7章 雲隠れ (後編)



第2節 百考千思 [6]




 大人しく待つコトもできないのか?
 そんなふうに思われるのが嫌で、今までじっと待っていた。
 だがそれも、限界だ。
「美鶴がここに戻ってくるとしたって、いつ戻ってくんのかわかんねぇ。戻ってくるかどうかも、わからないワケだろ?」
 尋ねられたワケでもないのに説明する。だって、その二つの円らな瞳に無言で見上げられると、どうしようもなく居心地が悪い。
「だったら、確実に会える場所で待った方がいい」
「だから、ココよりも自宅の前で待つ?」
「間違ってねぇだろ?」
 憮然と腕を組み、文句あるかと睨みつける。
 行ってみる? なんてフッてきたのはそっちだろ?
 そんな、焦りと苛立ちを必死に隠した相手の視線に、瑠駆真がゆっくりと立ち上がった。
「間違っちゃいないよ」
「じゃあ、そんな目で見るな」
「どんな目?」
「そのっ!」
 その意味ありげな、何か言いたそうな、どことなく見下したような目で俺を見るなっ!
 わかっているさ。 
 物事に対する判断力と分析力。そのどちらも敵わないと、わかってはいる。
 俺はコイツと違ってすぐにカッと頭に血はのぼるし、あれこれ頭ん中で考えるのも苦手。
 今だって、まるで捻くった数学の問題解いてるみたいで、座ってるだけなのに頭がポーッとしてきてる。きっと暑さのせいだけじゃない。
 わかってる。俺よりもコイツの方がずっとイイ男だし、ただ無骨なだけの俺よりも、コイツの方が頼りがいはある。
 学校では俺のコト気に入ってくれてる女子もいるけど、きっと標準で考えたらコイツの方が上なんだ。
 わかってるんだ。
 でも、わかってはいても、認めたくはない。
 認めたら負けなんだ。
 一方、一見寡黙にただ美鶴の登場を待ち続けているかのような瑠駆真も、実は心中穏やかではない。
 美鶴? 僕たちを… 僕を避けているの?
 瞳を閉じ、必死に想う。
 逢いたい。
 薄っすらと見開く。
「自宅で待つのは、間違ってはいないさ。でもその前に、一つ寄っておかないか?」
「どこへ?」
 自宅前待機という聡の提案よりも、さらに上をいく最善策を披露しようというワケか。
 ちっ 気に入らねーな
「どこだよ?」
 待ち続けた疲労も相俟(あいま)って、聡の苛立ちはさらに増す。
 そんな相手の心情を逆撫でしたくはないのだが―――
富丘(とみおか)
 その一言に剣呑な反応を示す聡。瑠駆真は思わず苦笑する。
 まぁ 気持ちはわからないでもない。瑠駆真もあの青年には、良い印象は持っていない。
 キザだと聡が表現するのには、実は結構同意見だ。







あなたが現在お読みになっているのは、第7章【雲隠れ (後編)】第2節【百考千思】です。
前のお話へ戻る 次のお話へ進む

【アラベスク】メニューへ戻る 第7章【雲隠れ (後編)】目次へ 各章の簡単なあらすじへ 登場人物紹介の表示(別窓)